ジストニアの予防対策

 テラッサ研究所のディレクターらは、これまでの研究結果に基づき、ジストニアの発症を予防するために、音楽家が考慮すべき内容を以下のようにまとめた。

1.技術的な上達を目指すだけでなく、心身全体に注意を払うべきこと。楽器演奏に関する衛生概論(姿勢、人間工学的適応、準備運動と整理運動、頻繁な休憩)の確立。演奏向上を反復練習だけに特化せず、可能なら心身を組み合わせた学習方法を具体的に取り入れること。

2.負担の程度を意識し、負担を減少させる方法を学ぶこと。特に、手の代わりに胴体や腕を動かしたり(上腕、前腕の回旋、肩甲骨の回旋、頭と脊柱の使用)、呼吸法を適切に行う。音と音の間で筋肉をリラックスさせ、演奏とは関係のない身体の一部分に独立して筋緊張を起こす方法なども役立つ。

3.解剖学的な制限に立ち向かったり、他の音楽家と競ったりしない。身体に害を及ぼすまでに負荷をかけてしまうという強制的な償いを避ける。

4.効果の上がらない練習方法に固執せず、他の方法を探して、練習時の姿勢や演奏方法を検討したり、奏法の変更を取り入れて、反復動作を控える。

5.同時に動かす動作や速すぎる動作など、大脳の識別能力を超える曲の練習は、大脳皮質の機能局在を損なう可能性がある。これはジストニアを発症する前に起こるひとつの節目と考えられている。これを避けるために、この種の練習に他のパッセージ(楽句)を取り入れたり、他の奏法に置き換えるなどして、一本一本の指の感覚を区別できなくならないように配慮すべき。練習の中に、感覚識別訓練を取り入れることも選択肢の一つ(具体的には、2−3本の指、4−5本の指を使って、点字を読んでみる)

6.神経伝導障害の場合は、機能障害が完全に治るまで演奏をしないか、激しい演奏は控える。

7.特定のパッセージや演奏動作時に、緊張、こわばり、協調運動の障害や困難といった感覚が現れる場合は、その演奏に固執しない。テンポの遅いパッセージを練習し、手やマウスピースをリラックスさせておく。うまくいかないことを繰り返したり、新たな緊張や代償性動作に抵抗してはいけない。