神経・筋組織で発見された変化1 抑制メカニズムの欠損

 筋紡錘から大脳皮質の介在ニューロン(感覚ニューロンから運動ニューロンへ刺激を伝達する)まで、神経・筋組織での様々な変化のうち、音楽家ジストニアについて科学的発見が集中しているのは4つの分野。①抑制機構②情報処理と統合③神経可塑性④運動プログラムの活性化。

 ①抑制メカニズムの欠損
 運動系は、動作を正確かつ円滑にコントロールするため、種々の抑制機構を利用する。神経系が正常に機能するためには、神経回路の興奮と抑制のバランスが不可欠だ。一本の指が独立して動くためには、その指の動作を司る筋肉を選択的・特異的に収縮させ、その指とは無関係の筋肉の収縮を抑制しなければならない(周辺抑制)。
 ジストニアは、拮抗筋の共収縮と、不適切な筋肉の過剰収縮を特徴とするため、音楽家は不必要な筋収縮と動作の干渉なしに、必要な運動指令を出すのが困難になってくる。この時の大脳皮質の活性化状態を、健常者の音楽家と比較すると、ジストニアを患う音楽家の活性化レベルの方が明らかに高い。音楽家は、演奏困難な場合、それを練習不足のためと考え、適切に演奏できない部分を強迫的に反復するので、ときに動作の障害を固定化してしまうという。