原因5 神経伝導障害

 末梢神経の伝導障害が、ジストニアの発症に大きな役割を果たしていると言われる。ジストニアを持つ音楽家の40%に尺骨神経障害がある、とチャーネスは指摘した。この神経障害は演奏中に薬指と小指の不随意な屈曲が起こる音楽家の77%に存在するとし、チャーネスらは、末梢神経障害が中枢神経系での変化を誘発し、その変化によって運動制御の障害が起き、そのまま維持されるという仮説を立てた。
 この仮説は、健常被験者で末梢神経の伝導障害が大脳皮質の興奮性に関する変化を誘発する、という事実によって裏づけられるという。
 一方、テラッサ研究所は「この関係をまだ確認できていない」と述べる。同研究所で治療した音楽家79名についての神経伝導治験では、患者中85%には電気生理学的な異常は認められなかったといい、残りの15%には伝導異常が認められたものの、その部位は肘の尺骨神経7名、手首の正中神経4名、第6頚椎の神経根1名だった。
 それにより、同研究チームは、末梢神経伝導障害で生じるとみられる感覚情報の変化と筋力低下が、ジストニアの引き金になるとの説には賛成だが、発症の主たる原因とまでは言えないとしている。