原因4 生体力学的制限

 ジストニアを発症した音楽家は、指を独立して動かす能力や、前腕と肩を回転させる能力が衰える傾向がある。関節の運動制限だけでなく、腱と筋肉の結合によっても筋負荷が増加し、これを代償するため他の筋肉を利用する必要が生じる。
 こうした変化により、障害が現れたり、運動の調整がうまくいかなくなるなどして、発症につながるのではないかという。
 あるピアニストは、右手の長母指屈筋腱(親指)と人差し指の深指屈筋腱の異常な結合があって、人差し指の屈曲動作が難しくなった。この腱結合が神経障害を引き起こしていると考え、この結合を外科的に除去した。手術から4日後に演奏を試みると、運動障害に大きな改善が見られた。しかし数日経つと、指の状態は元に戻ってしまった。

 ①生体力学的制限は、音楽家がその制限から脱しようと奮闘すると、中枢神経系レベルでの不適応な変化を誘発する
 ②一度そうした変化が中枢神経系内に起こると、その制限を修正しただけでは脳の構造や機能は正常化しない。(しかし、再訓練の過程を円滑に行えると考えられる場合には、制限を外科的に処置することを考えるべきともいう)