ボタン


玄関を開けると、モンペに地下足袋の見知らぬおばさんが
立っていた。
「おひとつ、どうですか?」
背中の背負い籠を下ろしながら、籠の中に目をやった。
ボタンの小さな苗がいくつも入っていた。


50年前のその時のやり取りを、今でも覚えている。
私はまだ小学生だった。
そのとき竹籠から出した苗のひとつが、このボタンで、
ほとんど手をかけないのに、毎年5月になると、つぼみが色づき、
あの時の記憶を蘇らせてくれる。