柔術

 部屋に、祖父の遺品が一つある。
昭和9年、旧東京市浅草区石浜町の精武館から受けた兵法柔道五段の免状で、昭和20年3月10日の大空襲をくぐり抜けた。
 巻頭に戸塚派揚心流とあるから、つまりは柔術だった。現在この流派は失伝しているらしい。


 昭和初期に、謎の武道家といわれた武田惣角が伝えた大東流合気柔術。その現代の名人、故・佐川幸義宗範の伝記『孤塁の名人』(津本陽著)に、惣角の「合気」の継承にふれた部分がある。

 「惣角には三人の子息がいたが、後年に合気を伝えた人は出現しなかった。大東流合気柔術宗家の継承者となった武田時宗氏(中略)は、長年の修業の結果であろう、稽古着の袖から出ている両手首は人間のものとも思えないほど太く(中略)、きわめて礼儀正しくおだやかな物腰の武道家の風格をそなえた方であったが、合気は会得されていなかったといわれている」


 ことほど左様に、武術の世界は奥が深い。
それに比べたら、私の太極拳の学び方は、むしろ稚戯に等しい。