嘉納が語る「効果的な動き方と応用」

 嘉納の型演舞を見た後、食事に招かれたモーシェの手には、ヘブライ語で書かれたモーシェ自著の柔術本があった。
 パレスチナへの入植時代に、銃撃とナイフの下をくぐり抜けた彼は、自分達の身を守るため、日本の柔術各派の技を本で学んでいた。
 嘉納は、その中の、絞め技を防ぐモーシェ自身が考案した技を自分に掛けさせた。下になった小柄な嘉納がモーシェの首に逆十字を掛け、巨漢のモーシェが上から拳で嘉納の首を圧迫した。
 顔色ひとつ変えない嘉納に、馬乗りになったモーシェの拳に力がこもった。気を失ったのは、モーシェ自身だった。
 このエピソードにふれたくだりで、嘉納は、柔道の技の根本原理は、目的を果たすのに一番効力があるように、自分の心身の力を働かせることで、それは他の何事にも応用できる原則だと述べている。