眠る胎ちゃん


 名前は「胎」。
私のところに来て10年。今も、仕事場の隅で、いつも眠っている。


 小栗康平監督に『眠る男』という作品がある。
長く外国を放浪して故郷に戻った男が、山仕事中に事故に遭い、今はただ農家の一室で昏々と眠る。
 山あいの河原に湧いた温泉「月の湯」には、町の人々がつかりにくる。ある日の夕べ、姑と赤子を抱いた若い嫁が湯船に入っている。
 姑「そうかね、腹ん中で尾っぽがついているときがあるとは聞いたけどね、魚みたいにエラまでねえ」
 嫁「受精から生れるまでの10か月の間に、何億年という生命の、全部の歴史をたどってくるんですって」
 姑「ふうーん、そういうもんかね、凄いんだね」


 「胎」ちゃんは、きょうも部屋の隅で眠っている。